本日の小説

岡田君はたなに並べられている本を見て、アッと叫んでしまいました。(少年探偵の文体で)

江戸川乱歩の少年探偵団シリーズが復刊されてるーーーーーーーーー!!!!!!!

というわけで、一も二もなく「大金塊」を購入。

児童向けなので平仮名が多くてちょっとだけ読みづらいんだけど、それを上回る江戸川乱歩的不気味さが良い。

特に冒頭シーン。今夜は1人でお留守番の不二夫君が心細さでビクビクしながら布団に入っていると、ふと天井から1枚の紙片がひらひらと落ちてきます。恐いから読みたくないのに、目が勝手に文字の上を走ってしまう。そこにはこんなことが書かれています。

不二夫君

どんなことが起こっても、きみは朝までけっしてベッドをはなれてはいけない。声をたててはいけない。ただ目をつむって寝ていればいいのだ。もし、さわいだりすると、きみはどんなめにあうかもしれないよ。それがこわかったら、ただじっとしているのだ。じっとしてさえいれば、きみは安全なのだ。いいかね、命がおしかったら、そのままじっとしているのだよ。

そして不二夫君が恐怖におののきながら窓に目をやると・・・。

おお、ごらんなさい。その窓のカーテンの合わせめから、ピストルのつつ口が、じっとこちらをねらってつきだされているではありませんか。長いカーテンの下からは、二本の長ぐつがのぞいているではありませんか。

悪者です。悪者が窓からしのびこんで、カーテンのうしろにかくれながら、さわげばうつぞと、不二夫君をおどかしているのです。


もうね。悪者の文体がとても紳士的に礼儀正しく、だけど静かな不気味さを漂わせているのが素晴らしすぎる。この冒頭の紙片の脅し文句は未だに鮮明に覚えています。

そしてその後に続く、カーテンから覗くピストル。なんて不気味で、ゾクゾクして、ハラハラするんだろう。読んだのは20年前のはずなのに、初めて読んだときのハラハラゾクゾクが昨日のことのようによみがえってきています。

江戸川乱歩って本当に大作家だったんだなぁ。もちろん「鏡地獄」とか「人間椅子」と言った変態を描いた作品も好きなんだけど、児童向けということを配慮して性的倒錯の描写を排除しても、未だに消しきることの出来ないおどろおどろしさ、不気味さ、ゾクゾク感。

「怪人」「妖怪」「魔人」「魔法」「怪奇」「恐怖」・・・ある種の嗜好と志向を有する人々にとっては呪文にも等しい効力を発揮する、これらおどろおどろしいタームの数々を、<少年探偵>シリーズの物語によって生まれて初めて具体的に体感し、幼な心に強烈に刻みつけられたという読者も少なくないことでしょう。
  巻末の解説より

どんぴしゃです。私がまさにそうです。こんなもんを小学生の頃に読んだからこそ、その数年後に幻想と怪奇と恐怖を描いたクトゥルフ神話にはまる原因になるわけです。きっかけは、ラヴクラフトの「インスマウスの影」。そしてポニョの魚人面を見て「インスマウス顔だー!」と映画館で叫びそうになるのです。私が映画館でポニョを見ていたときに、「恐いよー」と泣き出してしまう子供が2〜3人いました。少年よ、君たちの直感と恐怖は正しい。そんな君たちはあと5年したら江戸川乱歩の少年探偵団シリーズを読むんだ。「鉄仮面」もいい。それからさらに3年したらラヴクラフト全集1巻所蔵の「インスマウスの影」を読むんだ。きっと君たちを素晴らしき怪異の世界に誘ってくれる。頑張れ、少年。



いやーしかし面白かった。小林少年が悪者の住み処から脱出するシーンとか、洞窟で迷子になって海水が流れ込んでくるシーンとかは大人の私でも思わず「ど、どうなるの!?」とがぶり読み状態でした。あー面白かった。