それでもボクはやっていない

見てきました。超映画批評では98点という驚くべき点数で評価されたために一部のニュースサイトで取り上げられたりしましたが…。
http://movie.maeda-y.com/movie/00854.htm

私が見た限りでは、98点という数字をそのまま受け取るのは少々危険かと感じました。これは傑作ではあるけれど、エンターテイメントとしてはかなり弱い。私が見ていたときに右の夫婦は映画中でもヒソヒソと囁いていたし、左の高校生は何度も伸びをしたりアクビをしてました。

というのも従来の「裁判モノ」でありがちな見せ場はあまり用意されていません。普通裁判モノと言えば、正義の弁護士が悪い警察を法廷で弁舌を奮ってやりこめ、最後に裁判官が公平な判決を下す、という筋書きです。弁護士の弁舌を聴きながら「スカッ」とするのが、エンターテイメントとしての裁判映画かと思います。

ところがこの映画には、そういう明確な悪が存在しない。弁護士、検察、警察、裁判官。それぞれがそれぞれの考えと立場を持ちながら、それでも構造的に冤罪が発生してしまうこの国の裁判制度の姿を浮き彫りにします。


この映画の魅力は、「裁判官」に焦点を強くあてていることです。様々な制度上の問題から有罪判決を出したがる裁判官という存在を、これほど強く意識したのは初めてです。裁判官が被告人に対して尋問のようなキツイ質問を浴びせかけるシーンや、「これは私の裁判です!」と叫ぶシーンなどなど、もうたまらん。裁判官役の俳優がまたいい感じに演じ切れています。

でもね。「もうたまらん」と書きましたが、実際にはこの映画を見ていて私は始終、恐怖が止まりませんでした。あれとか、これとか、それとか、うわっあんなことされちゃうのか、もう勘弁してよ、もう許してよ!もういいだろ!!みたいな。深く書くとネタバレなのが辛いところ。

というわけでそのリアリティでは間違いなく傑作ではあるものの、あまり人に勧める気分にはなりません。見終わった直後、足は嫌な汗でぐっしょりしてたし、気分は絶望的だし。

これは「痴漢冤罪映画」ではありません。真に描き出しているのはこの国の裁判制度のあり方です。薦めづらいのだけれど、でも見て欲しい。そして私と一緒に絶望感を味わい、「さて、うーん、どうしよっか、この国の裁判制度。」と語り合いたいものです。

今なら陪審員制度導入の動機も、ちょっとだけ納得がいくのかも…。