たったひとつの冴えたやりかた

ハインラインの「夏への扉」が面白かったですよ、という話を職場の小説好きの人に話をしたところ、「・・・おかださんって、そういうのも読むんですね・・・意外だ・・・」と言われました。

(以下、脳内にて)
いやいやいやいや、待て。待て。

まあ確かに私は100のうち、80が漫画、9が新書、9がラノベ、2がそれ以外という人間ですからね。意外と思われるのは無理からぬこと。うん、まあ、そう思われているのは良く分かった。

しかしだ。あなたは「夏への扉」を文学作品か何かと勘違いして「意外だ・・・」と言ったのでしょうが、あれはれっきとしたジュブナイルであって、青少年向けの小説なのですよ。ですからラノベと立ち位置は大して変わりが無いのですよ。

まあだけど何やら高尚な小説を読んだと勘違いしているようだし、まあこれはこれで、訂正することも無いか。

「あはははははは、まあ、まあね」という会話をしまして。


もうひとつ古典的なSF小説を読みました。SF入門として良く聞くタイトルですが、れっきとしたジュブナイルです。青少年向けです。中学生でも読めます。

中編が3本入っていて、そのうちのひとつめが表題にもなっている「たったひとつの冴えたやりかた」。この邦題が素晴らしいなあ。原題は"It's the Only Neat Thing to Do."ですが、邦題の語感といい、漢字の選び方といい、いいなあ。

挿絵は懐かしの1980年代のタッチ。私が中学生くらいの時に読んでいた「エリアル」とか「宇宙皇子」とか、あの時代の小説はみんなこういうタッチだった気がする。

主人公は15歳の少女で、誕生日プレゼントにスペースクーペ(小型宇宙船)を貰うと、生来の冒険への憧れが止められずに宇宙の辺境に飛び出していく。そこで行方不明となった定期便の足取りを追っているうちに、エイリアンとコンタクトをしてしまい・・・、というお話し。夢見る少女が主人公なので、線が軽くて愛らしい絵柄になっています。微笑ましい。

・・・と思いきや、そのストーリーはなかなか生々しい。作者であるティプトリーは、病気で寝たきりだった夫を射殺して自分もピストル自殺を遂げたという。それも夫との間には前々から自殺の約束があったと言われています。・・・というお話しが小説の後書きに書いてあり、読み終えてからその後書きを読むと何とも言えない、老いと死についての生々しさが粘つくような独特の読後感があります。だけど一方で、とても爽やかで溌剌とした少女コーティとシロベーンの生き様を描いているわけで・・・。

鮮やかな若さと生々しい老いと死を表裏一体にしつつも、しっかりエンターテインメントとして成立させている希有な物語でした。記憶に残る読後感だわ、こりゃ。